狐の社・二社目

カードゲーム好き限界労働者がその時々に好き勝手ゲームについて語るブログ。

はぐれメタルのお話。

はぐれメタルのお話である。



今日このブログで語るのははぐれメタルのお話だ。

ドラゴンクエストシリーズ経験者ならば誰もが知っているであろうモンスター。経験したことのない人ももしかしたら聞いたことがあるかもしれない程度の知名度を誇る彼について一記事丸々使って話をしていこうと思う。

 

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まずは長い前置きから始めるとしよう。

1987年。ちょうど30年前の話だ。
家庭用ゲーム黎明期の混沌のさなか、ファミリーコンピューターの風雲児、ドラゴンクエストの第2作目が発売された。
ファミコン用ソフトドラゴンクエストⅡ」
それぞれ個性的な役割を持った3人の勇者の子孫たちが、本作の魔王的立ち位置である大神官ハーゴンを打ち倒し、世界に平和を取り戻すための旅をする。
王道も王道。今となっては古臭さすらある王道RPGである。

 

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ファミリーコンピュータ当時のゲームの多くがそうであったように、本作は極めてシビアな難易度で、かつユーザーに不親切な設計になっており、かの悪名高いロンダルキアへの洞窟(あるいは、そこへたどり着くまでの幾つもの難所)で心がへし折られ、再起不能となった子供たちが数多くいたという話だ。

そんな高難度ゲーとして有名なドラゴンクエストⅡだが、勿論ただ難しく理不尽で不親切なだけではこれほどのビッグタイトルにはなっていない。

何を隠そう、「Ⅱ」はドラゴンクエストシリーズの歴史を語る上で絶対に外せない一作なのだ。ほぼあらゆる面で「我々が想像するドラゴンクエスト」の基本形を作ったのはⅡなのだから。

無印から遥かに洗練され、遥かに発展したゲームシステム。広大なマップ。後にシリーズのお約束となるテンプレートの数々や、船や仲間の存在。多対多の戦闘シーン。シリーズ恒例となる、大量に追加された新たなアイテムや数々の呪文。そして恐ろしくも魅力的なモンスターたち。

ドラゴンクエストにおける真の原点とはドラゴンクエストⅡであるという意見も肯ける、シリーズにおける革命児、あるいはドラゴンクエストの時代を切り拓いた名作と呼んで差し支えない一作となっている。

そんなドラゴンクエストⅡの世界にひっそりと産み落とされた新たなモンスターがいた。
後に看板モンスターの一体となるそれの名は、「はぐれメタル」と言った。

 

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はぐれメタル
「高い防御力を持つモンスター。すぐに戦闘から逃げてしまうが、うまく倒すことができれば大量の経験値が手に入る」
という、メタルスライムの一族に名を連ねるモンスターである。メタルスライム最初の亜種と言い換えてもいい。
Ⅱの時代のはぐれメタルは無印のメタルスライムと同じく、さほど「美味しいモンスター」という立ち位置にはいない。防御力は高く、HPもそれなりにあり、パーティ全体に火炎を放つ「ベギラマ」の呪文で攻撃をしてくる厄介なモンスターだった。
彼ら一族が経験値のためのカモというキャラクターを確立するのはⅢになってからだ。

ドラゴンクエストⅢからのはぐれメタルはキャラ付けが一貫している。少し上で紹介した通りだが、もう少し詳しく解説すると…

  • 「一桁程度の低いHPしか持たないが、高い防御力により会心の一撃以外のダメージは1に軽減され、呪文も無力化される」
  • 「極端に素早く、そしてすぐ逃げる。戦闘開始と同時に逃げ出すこともしばしば」
  • 「戦闘力は低い。たまに攻撃呪文を撃ったり、物理攻撃を試みるものの、その時期の勇者たちにとっては蚊が刺した程度のダメージしかなく、脅威ではない」
  • 「逃がさず倒すことができれば、同じ地域の普通のモンスターと戦って勝つよりも遥かにたくさんの経験値が手に入る。」


…というものだ。
この辺りは多くの読者が知っている事だとは思う。
要はⅢ以降のはぐれメタル(及びメタルスライム系各種)は開発側が用意したボーナスキャラであり、意図的に「倒すと美味しいモンスター」として作られているのだ。

呪文を無力化する特性を持つものの、ドラゴンクエストVIからは、VI以降に登場する「特技」にはさしたる耐性を持たないという弱点が追加された。

命中率は低いものの当たりさえすれば確実に会心の一撃と同等のダメージが出る「魔神斬り」や「一閃突き」。
連続攻撃により1点をx回ぶつけ効率よくHPを削る「はやぶさ斬り」「爆裂拳」。
確実にダメージを与えられる「メタル斬り」など、人類の技術は飛躍していき、シリーズが連なる毎に様々な技術が生まれ、メタル狩りが効率化され、はぐれメタルの生存率は加速度的に下がることとなる。
乱獲の始まりだ。

人間は欲望の為ならば鬼にも悪魔にもなれる生き物である。

乱獲によって絶滅した数多くの種族のように、はぐれメタルは次々と勇者たちに追い立てられ、殺されていった。

はぐれメタルはそのとぼけた見た目とは裏腹に、血腥い歴史を持つモンスターなのだ。

筆者の持っている「ドラゴンクエスト モンスター物語」という書籍でははぐれメタルのルーツについての記述がある。
掻い摘んで解説すると、心優しいバブルスライムたちが妖精を助けたお礼に天上界へと案内され、その際毒の身体を清めたことでメタル化したというものだ。ここからも、彼らが元来争いを好まない平和的な種族であることがよくわかる。

しかし、争いを好まない種族かどうかなど勇者たちにとっては関係がない。
勇者たちははぐれメタルを殺す。
ひたすら殺す。見つけたら殺す。血眼になって殺す。

それはナンバリングタイトル最新作であるドラゴンクエストⅩⅠでも同じだった。メタルハンドという極めて効率の良いメタル狩りの対象が現れたためにはぐれメタル狩りは少しだけ形を潜めたものの、相変わらず見つかり次第一閃突きや魔神斬りの嵐に見舞われていた。

 


はぐれメタルとは狩られる為に生まれてきた。
はぐれメタルとは永遠の被食者であった。
これが、2017年までのはぐれメタルだった。




ドラゴンクエストⅡの発売からちょうど30年が経過した、2017年の下旬のことだった。
突如としてドラゴンクエストライバルズ」というアプリケーションがリリースされた。
ドラゴンクエストシリーズに登場するモンスターやキャラクターをカードで召喚し戦わせるという対戦型カードゲームであり、シリーズとしては珍しい完全な対人戦略ゲーだ。
昨今のEスポーツブームにスクウェア・エニックスが看板作品を引っ提げて乗り込んだ、ドラゴンクエストの新たな地平を切り開くと共に様々な層を取り込もうとする意欲作だった。


あまたの看板モンスター。あまたの人気キャラクターが集う一作。とある世界を揺るがした魔王の面々と、かつてまったく別の世界を魔王から救った勇者一行が入り乱れ、敵として戦い、時には共闘し、鎬を削る。ライバルズはリリース時点で既にドラゴンクエストシリーズの歴史が凝縮されたかのようなカオスを呈していた。

そこに「はぐれメタル」もいた。
ライバルズの第一弾カードセット、「スタンダード」に相応しい看板キャラクターとして、287種類の収録カードの中に、彼の姿もあったのだ。
確かに、彼の姿は見覚えのあるそれであった。
だが、今までのはぐれメタルとは決定的に違った性質を持っていた。

 


強かったのだ。
強過ぎたのだ。
30年間狩られ続け、一方的に殺され続けてきたはぐれメタルが、2017年に遂にその牙を剥いた。
果たしてそれは狩られ続けて来たはぐれメタルたちの無念が形を成したのものか、あるいは神の悪戯か、その真意は定かではない。ただ一つだけ言えることは、「ライバルズ」における彼は紛うことなき「捕食者」側の存在だという事実だけである。

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コスト3。つまり3ターン目以降に出せるモンスターであり、攻撃力とHPは2(つまり2/2)と他のコスト3モンスターと比べてやや控えめな値になっている。これははぐれメタルの戦闘力がさほど高くない事を表現しているのだろう。
はぐれメタルはぐれメタルと定義する要素として、このカードは「速攻」「メタルボディ」という二つのアビリティを持っている。

「速攻」とは。通常モンスターが自発的に動けるようになるまでは召喚した次のターンまで待たなければならないが、速攻を持ったモンスターは出してすぐに行動できる。そんな能力だ。はぐれメタルの高い俊敏性を表現するためにつけられた能力であろう。

 「メタルボディ」とは。3点以下のダメージを1に軽減する能力であり、メタルスライム系統のモンスターが持つ特性をそのまま能力として作り直したかのような性能を持っている。

この二つのまさに「はぐれメタル的」な能力と2/2という小さめのスタッツが、既存タイトルでのはぐれメタルというモンスターを上手く表現しており、筆者はとてもよくできたカードという感想を抱いた。おそらく同じような事を思ったシリーズファンは多かったはずだ。
それほどまでに、ライバルズにおけるはぐれメタルはシンプルかつ的確なデザインだった。
我々の想像を遥かに超えるパワーカードだったという一点を除いては。

モンスターでモンスターを攻撃できるハースストーン形式のカードゲームにおいては、出した瞬間即座に攻撃できる能力は基本的に強力である。
何故なら、普通のモンスターは攻撃できるようになるまで1ターン待たなければいけないぶん、戦闘するモンスターの選択権は先手側にあるのだが、速攻を持つモンスターはそれを覆すことができるからだ。

例えば、先に1/4と2/1を出していたとする。すると後手側の相手が4/2を出した。このままでは4/2に1/4が一方的に倒されてしまうが、こちらは先手側なので戦闘における選択権がある。4/2が動けない間に、返しのターンでこちらから2/1を相打ちに向かわせることで得をすることができる。これが戦闘における選択権を持つということだ。

故に、速攻で攻撃できるカードは強い。何らかのカードで攻撃が阻害されていなければ、常に自由に戦闘相手を決められる選択権を持つからだ。弱いモンスターを狙い一方的に戦闘に勝たせて生き残らせることも、相打ち覚悟で除去として運用することも、敵のモンスターの群れを掻い潜って敵本体にダメージを与えることも自由自在なのである。

ここではぐれメタルの話に戻るとしよう。
はぐれメタルはたった今ベタ褒めした速攻にメタルボディという特性が加わることで完全なる殺戮マシーンと化してしまった。

戦士テリーのテンションスキル、「稲妻の加護」は自身に3点の攻撃力と貫通を与えるというものだ。

メタルボディがあるはぐれメタルは倒せない。


魔法使いゼシカのテンションスキル、「紅蓮の火球」 はモンスターかプレイヤーに3点のダメージを与えるというものだ。

メタルボディがあるはぐれメタルは倒せない。


魔剣士ピサロのテンションスキル、「魔族の騎士」は3/2のピサロナイトを召喚するというものだ。

メタルボディがあるはぐれメタルは倒せない。


細かい説明は割愛するが、これだけで何がどうなってしまっているのか多少理解はできるだろう。盤面に干渉するスキルを持つヒーロー全員が一手ではぐれメタルを処理できないのだ。
モンスター同士の戦闘ならば2回攻撃を許せば3/4までは相打ちを取られ、3/2までは一方的に殺されはぐれメタル側が生き残る。

+1/+1の修整を永続的に与える《マポレーナ》と組むことで更に一匹追加で食われる事すらある。
カードゲーマーならば、3コストのモンスター1匹にこちらの小物が2匹狩られてその上3/1と2/3が残るなど悪夢としか言い様がない、身の毛のよだつような恐ろしい状況であることが理解できるだろう。

とどのつまり、メタルボディという能力が強過ぎる上に、速攻や強化との相性が良すぎるのだ。

小物を一対多交換できるという性質から速攻アグロデッキに対して強いが、速攻で相手プレイヤーを殴れる上に場持ちが良いクリーチャーということでアグロデッキ側もほぼ確実に採用している。
そして何より問題だったのが、はぐれメタルが中立カード。マジックで喩えるならば無色。つまり、あらゆるクラスがデッキに入れる権利を持つ類のカードだったということだ。
この高いスペックはもはやはぐれメタルを弱く使うデッキを組む方が難しいというレベルにまで達していた。

後手で2コスト3/2を出した返しにはぐれメタルに一方的に殺される。

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後手で2コスト3/2を出した返しにはぐれメタルに一方的に殺される。

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後手で2コスト3/2を出した返しにはぐれメタルに一方的に殺される。

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後手で2コスト3/2を出した返しにはぐれメタルに一方的に殺され、

そうして、誰かがこう言った。

「どうせはぐれメタルに一方的に殺されるだけなら2/3/2なんて入れなくていいんじゃないか?」

それは正しかった。事実、リリースから数日の間に環境から2/3/2や2/3/1のクリーチャーはほぼ完全に消え去っていた。
使うならばコスト2の2/3。はぐれメタルの一撃で狩られない2/2/3だと、誰もが理解した。いや、理解せざるを得なかった。強制的に理解させられた。はぐれメタルに一方的に殺されるような2コスト以上のカードに人権はないのだと。

中立の2/2/3には《オーク》や《ドロヌーバ》など優秀なモンスターが複数いる。2/3/2の後釜になり得る人材はいくらでもいた。
かろうじて残ったのは《クックルー》や《おむつっこり》のような、出た時or死亡時に仕事をするごく一部のモンスターのみ。
斯くして、3/2のモンスター達は狩り尽くされた。他でもない、勇者に狩られ、経験値を献上するためにこの世界に産み落とされた《はぐれメタル》という種族によって。

通常のカードゲームならばここでメタゲームが移り変わる。はぐれメタルへの対策が確立されることではぐれメタルが環境から減っていき、その減ったタイミングを狙ってまた2/3/2のクリーチャーが復活するというシナリオだ。
だが、(勿論詳しい数字は出ていないので憶測・体感でしかないのだが)未だにはぐれメタルの採用率が目に見えて低下したということはない。

おそらく統計をとったならば、はぐれメタルの採用率は《りゅうおう》や《アンルシア》など様々なデッキに入るレジェンドたちと同格か、それ以上の採用率を誇っているはずだ。下手をすれば採用率一位ということも有り得る。
その上メタルボディ持ちの対策カードとして作られたであろう《メタルハンター》は明らかなスペック不足かつ根本的な問題の解決にまったくなっていないという有様なのだから恐ろしいことだ。

強力なだけならまだ良かったのだが、はぐれメタルは同じ3コスト帯のカードと2コスト帯のカードの選択肢を明らかに狭めている。少々問題のあるカードだと筆者は感じている。

もしかしたら、もしかしたらだが、後のアップデートで下方修整されることも起こり得るのではないだろうか。

しかし、それにしてはこのカード能力はあまりにシンプルに完成されすぎている。速攻かメタルボディが失われればこのカードは同時にフレーバーをも失い、もはや「はぐれメタル」ではなく、はぐれメタルのイラストが描かれている何か」になってしまうし、1/2にするか4コストにしてしまうとこのカードの存在意義は完全に消滅する。
そう、これは極めて際どい足場の上に立っているパワーカードなのだ。

研究が進むことではぐれメタルはある程度のところで落ち着いてしまうのか。開発が手を加えることで強制的に戦場から退場させられるのか。
ベータ版からそのままの能力で続投されている以上、現状スクウェア・エニックス側ははぐれメタルのスペックに何の疑問も抱いていない可能性も高く、このまま修正も何もなく次のセットまで駆け抜けるのかもしれない。


ただ、どんな未来が待ち受けているにせよ、今この瞬間は、はぐれメタルにとっては30年間待ち望んだ黄金の時代だ。被食者であった彼らが遂に捕食者となり、恐れられ、食物連鎖というヒエラルキーの上位に上り詰めた記念すべき一時代だ。

我々も、もう少しの間だけ捕食者としての立場に酔いしれる彼らに付き合ってあげるのも良いのかもしれない。

 


では、彼らはぐれメタルの歴史に思いを馳せながら、この話を締め括ろうと思う。

 


御覧いただき、ありがとうございました。